スキップしてメイン コンテンツに移動

001 ゴムの歴史を見てみよう


ゴムを理解するうえで、その歴史を知っておくことは専門家と話をするうえで有用でした。ゴムの発見から現代の合成ゴム全盛までの道のりをたどってみましょう。

ゴムの樹液を取る様子

ゴムが初めてヨーロッパの人目に留まったのは、コロンブスが第二回のアメリカ探索をしたときと考えられています(1943~46年)。コロンブスの一行が見たものは、原住民が遊びに使っていた弾力のある黒いボール状のものでした。しかし、6世紀のアステカ文明や、11世紀の南米マヤ文明に その痕跡があると推測されているように、それまでの相当長い期間、ゴム樹の生える地方では色々利用されていたものと想像されています。








 1747年、フランス人によりゴム樹が発見されるころになると、現地ではゴム樹液(ラテックス)を布に塗って防水布を作ったり、土型に塗って中空の容器を作っていたようです。しかし、ゴム樹から得られたラテックスは極めて不安定であり、搬送中に凝固してしまうものでした。従って、ラテックスの利用は現地でしかできないため、西洋諸国におけるゴムの応用は進展しませんでした。

 1759年になると、生ゴムが鉛筆で書かれた線を消すものとして利用できることが英国で見出されて、消しゴム=ラバー(Rubber)と命名されました。このRubberは「こするもの」との意味に由来しています。西洋文明でゴムの用途を考えた第一号が消しゴムであったことは、事務機業界に携わった者としては奇妙な縁を感じます。

 その後1823年ごろより、石油に溶かした生ゴムを布に塗って防水布を作る方法が考案され、これを契機としてゴム利用の応用が積極的に行われるようになりました。しかし、このような生ゴムをそのままを用いたゴム製品は安定性に劣っていました。夏は柔らかく冬はガチガチになるなどの硬度差が発生し、保存していると粘着するなどの不具合があったのです。そのため、積極的に使われるようになりましたが、その用途は制約されていました。
 
 ところが、1839年アメリカのチャールズ・グッドイヤーが生ゴムに硫黄を練りこんだ後、熱を加えることによって前述の欠点が改善されることを発見して、近代ゴム工業の基礎を作ることとなります。余談ですが、前日に奥さんと喧嘩した反動で、半ば投げやり的に材料を粗末に扱ったうえ、腹いせに投げつけた材料の一つがストーブの上に落ち、翌日にとぼとぼと後片付けをしている際に発見したと言われています。

ゴム工業ではこの操作を加硫と言います。英国人ハンコックにより、塩化硫黄だけでなく、有機化酸化物、放射線など硫黄を必要としない手段によっても同じような改善ができることが分かりましたが、全て加硫(Vulcanizationギリシア語で火の神or Cure)と呼びます。

 この加硫の発見によってゴムの用途が広がり、野生の天然ゴムだけでは足りなくなってきました。使い物にならなかったゴムが価値あるものへと変わり、次第に高価になっていったのです。そこで、ゴムの栽培について研究が進められることになりました。

当時、ゴムの樹はアマゾン流域のジャングルにしか存在しなかったため、「黒い黄金」と呼ばれるほど非常に高価なものでした。そのため、ゴムの樹は金の生る木であり、国の監視下にあったのです。しかし、1876年に英国人ウィッカムがゴムの種子をアマゾン流域からイギリスに持帰り、ロンドンの植物園で発芽に成功させました。この時、数千本の苗木を輸出しましたが、赤道を超え、イギリスについた時には僅か数本のみだったと言われています。なお、栽培天然ゴムが市場に現れた1900年以降、瞬く間に広がり、現在では、天然ゴムは全て栽培ゴムと言って良い状況です。

瞬く間にゴムが広がっていった状況には欠かせない項目があります。20世紀初めに起きた自動車工業の急速な発展です。ここにはゴムの技術に関する数々の発明がありました。英国人のダンロップによる空気入りゴムタイヤの発明(1888年)による乗り心地の改良、加硫促進剤の発明(1906年)による生産性向上、カーボンブラックの補強材としての使用(1920年)によるタイヤの実用化、老化防止剤の発明による耐久性の向上などです。ゴム加工技術の進歩と相まって、ゴムの大きな用途が開発されていったのです。

 供給の面でも発展がありました。天然ゴムは野生から栽培に変わり、均質性と供給の円滑さの面では非常な進歩でした。ところが、ここにも問題は潜んでいたのです。ゴム樹液は一年中採液されますが、乾期や24月にかけての落葉期には産出量が減少し、11月~1月の雨期が最大の生産期になります。しかし、生産地が熱帯地域に偏在していたこと(タイ、インドネシア、マレーシアで、この3カ国で世界の総生産量の7割)、ゴム樹の植付けから採液まで数年を要する農産物であるがゆえに急激な増産に対応できません。世界情勢によって価格が大幅に変動するという不都合がありました。そこで、天然ゴムと代替可能なゴムを人工的に製造するための合成ゴムの研究が盛んに行われるようになりました。現在では、天然ゴムに代わる一般用合成ゴムとして、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、などの合成ゴムが市場に流通しており、品質的にも、価格的にも天然ゴムと十分競争できる状態になっています。

 ところで、天然ゴムはゴムタイヤ、ゴム履物、雑貨用品などのような一般的な用途に対しては、性能的に十分耐えられますが、OA機器用や航空、宇宙工業用の特殊用途に対しては、実用性能の面で大きな欠点を持っていました。天然ゴムの特性上の泣き所は、耐老化性(耐熱、耐オゾン、耐候、耐薬品)と耐油性(耐鉱物油、耐動植物油)が大きく不足しているのです。したがって、工業用の特殊用途では価格は高くても、天然ゴムのこれらの欠点を改良した特殊合成ゴムの開発が強く求められました。

 このようなニーズに対して、特殊性を持った合成ゴムの研究開発が各国で盛んに行われましたクロロプレン、EPDM、ウレタンゴム、ヒドリンゴム、シリコーンゴムフッ素ゴムなどはその代表例です。現在では、ニーズに応えた各種の合成ゴムが市場に出回っていますが、特殊用途に対するニーズは技術の進歩と共に高度化しつつあり、特殊合成ゴムの研究開発は現在も日進月歩で進められているのです。
ゴムに関わる主な出来事


コメント

このブログの人気の投稿

003 ゴムの分類方法

ここではゴムの基本的な特性を見ていきます。 ゴムの分類方法には、以下に示した5つくらいの方法があるようです。 1.天然ゴムと合成ゴム 2.主鎖の二重結合の有無 3.汎用ゴムと特殊ゴム 4.日本工業規格による 5.分子の組成や構造 1は歴史のある分類方法です。 ゴムはこれまで天然モノが大半を占めていましたので、使われる量を考えても自然な流れです。 2は機能上から出てくる分類です。 主鎖に二重結合があるということは、柔軟性やオゾンに対する性能などに大きな違いが出てきます。少し専門的な用語を使えばジエン系ゴムと非ジエン系ゴムということです。 3は、1の視点に工業での使われ方に視点を加味した分類です。 汎用ゴム、準特殊ゴム、特殊ゴムの3分類としていますが、汎用と特殊の線引きはタイヤに使われるか、そうではないかというところです。 4は、日本工業規格(JIS)による分類です。 文句無しの基準です。国際規格(ISO)をもとに制定され、用語、評価方法、など一連の分類があります。 代表的な規格としては、JIS K6397 原料ゴムおよびラテックスの略号、ISO1629 Rubbers and latices Nomenclatureなどがあります。詳しくは別のページで。 5は、モノマーの種類や配列による分類です。 ゴムの構造に注目した化学目線での分類になります。高校生程度の化学的知識を要求されますが、構造が図示されているので、視覚的に性能が見えるという利点があります。 ※参考 新版 ゴム技術の基礎 このブログでは、3の分類に5の視点を加えて展開していきます。 3は、歴史的、設計者目線からみてちょうど良い分類で、経験上、使い勝手も良く、さらに5の視点があると応用が効くようになります。 次以降で詳しく見ていきます。

000.このブログの対象者と得られるスキルレベル

うももにおんは、大手の精密機械メーカーの技術者として10年ほど仕事をしたのち、現在は同じ会社の事業開発者として仕事をしています。 自分のスキルの棚卸しも兼ねて、かつて作成した新人設計者向けの教材を、違うスキルを得た今の視点で作り直していったらどうなるだろうか?というのが作り始めようとしたきっかけです。 対象とする項目は、ゴムの基礎的な技術知識です。 こんな人にオススメです。  仕事でゴムを扱うことになったけど、何から始めたら良いのか分からないという3年目くらいまでのメカ系の設計者。  化学の知識は高校で終了という方でも分かるようにします。 達成できるスキルレベルは?  ゴムメーカーの人が話す専門用語は何とか分かるようになって、何なら要望を出せるかもしれない位までに。 構成は、ゴムの歴史、定義、性質(種類・分類、使われ方)、評価、製造方法、使うにあたっての注意、協力工場での工程を確認するポイントを考えています。 気長に更新していきます。